前回のがくさんのお話…「好きを起点に生き方を決める。」

 

前編ではがくさんのこれまでの人生の転機、自分で人生を決めて生きるがくさんの姿に触れてきました。

ここからはがくさんがどうしてここまで前向きに色んなことに取り組めるのかそのモチベーションの根源のようなものに迫っていきます。

 

 

冒頭でお話いただいたように、がくさんは宿業からさらに範囲を広げてジオパークやまちづくりなどで活動をされていますが、そのモチベーションはどんなところにあるんですか?

「それは楽しいから。だって旅館だけやってても面白くないもん。」

 

「香住の旅館って忙しいのは11月から3月だけなんだよね。それ以外暇なのよ(笑)」

 

「さあ頑張ろうと思ってサラリーマンを3月で辞めて、4月に香住にやってきたときには同業の方は誰も働いてなかった。蟹のシーズンの3月から11月の5か月頑張って、ご褒美で4月は遊びに行く。それはそれで間違ってないんだけど、俺はそれを見てカルチャーショックを受けた。じゃあこの時間に働いたら圧倒的になれるじゃんって。あとで分かるんだけどね、11月から3月が死ぬほど忙しいってことが(笑)」

 

楽しいからっていうモチベーションでまちに関われるのはいいなぁ。

 

「行政も住民も以前とは変わってきている。以前は頼まれてボランティアでまちに関わることが多かったけど、今は自分の得意分野でまちのことに関われるようになってきた。ジオパークのことなら手伝えるよとか、塗装業をやってる人が空き家問題は得意を活かして手伝えるとか。でも、結局そういう風に得意なことや好きなことじゃないと続かないから。」

 

「海のゴミ拾うボランティアをやるにしても、好きだからやるだけ。たとえ誰もやらなくなっても。でも、好きじゃなかったら、みんなやらないのに何で俺だけやらないとダメなんだ、となってしまう。」

 

たしかに。そう考えると、何か自分の好きや得意を活かして働きたいと思っていたり、地方と関わってみたいけど何からすればいいか分からないって人も、まずは地域に飛び込んでみて自分の出来ることを地域というフィールドでやってみる、そんなことでいいのかもしれません。

 

このような出来ることだけをやるという発想はがくさんの宿業にも共通の話。がくさんはこんな実体験を教えてくださいました。

「50年前の部屋の作りのままで宿業をされている方から、予約サイトで口コミ評価がとても低いっていう相談に乗ったことがあった。でも海外のサイトだけ口コミ評価が4.0だった。見てみると、”Japanese traditional stayle”って書いてあった。」

 

「日本人だったら古臭いとか書くところが、外国人は日本の伝統的なスタイルが味わえる宿だって絶賛で書いてる。」

 

「だからもう外国人だけ受け入れるようにしたらどうですか?って話をした。そうすれば口コミあがりますよって。」

 

たしかに。一見すると極端な発想に見えますが…。
自分の得意を活かすという考え方で言うと、そう考えるのも自然。

「悪い口コミはどんどん入ってくる。そうすると仕事が嫌いになる。予約サイトを使いたくなくなる。するとどんどん売り上げが減っていく。うちもそういう悪循環に入ってしまったことが2000年代の後半からあった。」

 

「そこで2009年にリフォームをして大リニューアルをした。田舎の民宿だったから部屋にトイレが無かったけどそれを付けた。すると洗面が小さいとか次のクレームが来るようになった。何やってもクレームは来る。完璧は無いのよ。」

 

「だったら最初からやらない方がいい。それよりも今の状態で喜んでくれるお客さんを探したらいいってことが分かった。」

 

 

まちづくりに関わるボランティアもお仕事も、楽しくないと続かない。
楽しくないとそのことが嫌いになる。
なら、嫌いにならずに楽しく続けられるように工夫をする。
自分の得意や強みを伸ばすようにする。

がくさんの話にはそんな一貫したメッセージがあります。

 

 

最後にがくさんの今後の展望について聞きました。

「まず決めたこととしては、会社を大きくしない。儲けることを考えれば大きくする方がいいのかもしれない。でも楽しいかって言われたらしんどいだけだよ。金額大きくなるし、人の悩みも出てくると思う。人口も減る中で、もし、店舗を増やして1人店長が辞めてしまったら、お客さんより従業員を探す方が大変で、辛いことしかないと思う。」

 

「だったら自分と考えを共有しながら商売してる人で周囲が満たされる状態で止めておくほうがいい。その代わりに、同じように集客や売上で悩んでいる人のサポートをすることに力を使う。そして、自分たちと同じように仕事を楽しむ人を増やす。」

 

「だって、自分たちだけが儲かっても地域は残らないもん。それなら若い人が新しいことを始めるのを応援する方がいい。」

 

 

今後の展望が、「会社を大きくしないこと」ってとても逆説的に聞こえます。

会社を大きくすることで自分たちのそもそもの楽しみや想いが薄れるなら、いい規模を維持する。

そして、そこからは同じように仕事をおもしろがる人を増やすことに重点を置く。

 

たしかに、仕事は必ずしもお金だけのためではないし、どれだけお金があってもその人生がつまらないならそれはどうなんだろう。

さらには、そもそも人生つまらない感じで売上って上がるの?

そんな風にがくさんの展望には常識を疑い、本質を突く学びがあるように感じました。

 

このインタビューでがくさんが度々口にされていた言葉。

「どっちが儲かるかではなく、どっちが楽しいかを考える。」

 

生きていく上での意思決定の方法を改めて考えさせられる2時間のインタビューでした。

 

(文:山本 修太郎)