しとしとの取材は取り上げる方の人としての魅力やお仕事への想い、地域への想いを聞くことを目的としています。

 

一方で、お話を進めていく中で、少しその目的からは脱線していきつつも、大切な学びを得られるお話もありました。
最後の質問を終えてから、脱線で30分以上話し込んでしまう事態も発生ししています。(笑)

このコラムでは、そのような前向きな脱線の中で得られた学びを取り上げ、発信していきます。

 

 

しとしとで記念すべき初めての取材をさせてもらった二人の師匠。

松岡大悟さん小林良斉さん

おふたりのお話の中には共通する大切な気持ちがありました。

今回は、その重なりを拾っていきましょう。

 

テーマは「地方移住の話で見落としがちなコト」について。

 

 

 

受け入れる側の覚悟

松岡さんは見落としがちなコトを「受け入れる側の覚悟」という言葉で表現されていました。

 

地方への移住を決める人は、人生を大きく左右する選択に覚悟を持って向き合っている。

では、受け入れる側はその覚悟にどう応えるのか、ということです。

 

大悟さんは「続けられなくなった畑や田んぼを移住者が代わりに世話してくれるといいな」という声を聞くこともあるそうです。

そんな風に、様々な問題を抱えている地域では、移住者のことを「問題を少しでも解決へ向かわせてくれるありがたい存在」として捉えがち。

 

 

そのようなスタンスに対して松岡さんは、
「移住者が人生を懸けた選択を覚悟を持ってしてくれるのであれば、受け入れる側もきちんとその人に向き合う覚悟をしなければならないのではないか」
と考えていました。

 

 

だから松岡さんは、移住を決断してくれた方が地域にやってくる前に、自ら足を運んで地域の現状を良い面も悪い面もお話しするそうです。

 

移住してもらうことが目的ならば良い面をPRすればいいけど、移住してもらうことが目的ではない。

むしろ、移住後の人生の方がずっと長いのだから、地域のありのままを見てもらう。

その上で移住を決断してくれる人には敬意を払い、覚悟を持って向き合う。

 

「移住の目的は人の数を増やすことにあるのではなく、移住を決断してくれた方の人生がより豊かになることにあるのではないか」

松岡さんのお話しは、そんな当たり前だけど見えていないことを気づかせてくれました。

 

 

 

 

安心できる場所、落ち着ける場所をつくる

 

他方、小林さんは「安心できる場所、落ち着ける場所を作ること」という言葉で受け入れる側の努力を表現していました。

 

 

小林さんが住む小代(おじろ)地区には移住をして来られる方が増えてきています。

 

小林さんはその要因を、初めて訪れた人にも「安心感、落ち着けるという感覚」を感じてもらえるからではないかと話してくれました。

 

 

小代には、初めて訪れる人でも地域として迎え入れるコミュニティがあります。

一緒に談笑しながらお酒を飲んで、帰るときには「また来いよ」と声をかけてくれる人たちがいること。

 

地域に人を迎え入れる上で、簡単そうで実はとても難しいこの雰囲気づくりが小代では自然になされているようです。

 

これは、人が集まるコミュニティの土壌を継承するという、無言の努力の賜物のように感じました。

 

 

それでも小林さんは「それが楽しいから!結局そこに住んでいる人が楽しまないと!」と軽やかに表現します。

 

 

都市部に住んでいると感じることの少ない、「顔の見える人間らしい関係性」を残してきたことの価値がここにはある。

 

その魅力が移住という決断を後押ししてくれる。

 

そして、「おかえり」って迎え入れてくれる、その関係性の温もりが新たな生活のスタートを自然な形で切らせてくれる。

 

そんなつながりが見えたような気がします。

 

 

 

 

移住施策の本質的なあり方

おふたりの話を踏まえての僕らが考えた移住施策の本質的なあり方。

それは、「まちが、きちんと人間らしい関係性を維持できる規模を考え、それが出来るコミュニティを維持すること」です。

 

移住してきてくれる方に敬意を払い、温かな関係を作れるかどうかという基準で目標を作り、地域の人と移住者の人生を豊かにするチャレンジを応援する。

そんな、単純な数では測ることのできない価値観を持つことができたら。

 

 

トレンドとして移住を進めるのではなく、「動かない視点」について考えることが出来ればいいなと感じました。

 

(文:山本 修太郎